*Promise*~約束~【完】


~エリーゼside~


ーーー数ヶ月程前ーーー



「エリーゼ?ライナットの誕生日って過ぎてるってホント?」

「なによいきなり」

「いや、ルゥにライナットの誕生日聞いたら過ぎてるって言われてショックだったから……」

「本当よ。仕方ないでしょ?ここに来てから運良く誕生日が……みたいな展開はないわよ」



私はぴしゃりとリオに言ってのけた。彼女はあからさまに残念がるように項垂れる。

しかし、私はガラにもなく助け船を出してしまった。



「でも、ライナット様の言い付けで誕生日パーティーはしてないわ。やりたいならサプライズってことで手伝ってあげてもいいわよ」



その言葉にバッと顔を上げると、満面の笑みで私に笑顔を向けた。

いや、のろけたようなふにゃふにゃとした顔だったかもしれない。

……とにかく、リオは嬉しそうに私を見てたってこと。



「じゃあ、やろうよパーティー!ルゥとダースさんに言ってこよーっと」

「僕も交ぜてくださいませんか?」



そこにタイミング良くガイルが登場した。この猫を被った彼の顔を見るのは初めてではないが、リオは気にした風もなく笑顔を振り撒く。

そして、いいよー!と返事をした。

本当にこの子は、ライナット様のこととなると無邪気になるわね。



「では、彼もよろしいですか?」

「……どうも初めまして。医者のハルです」

「初めまして。ハルさん、ですね」

「普段は彼は医務室にいるのですが、どうしてもリオさんを見たいと言い出しまして」

「皆さんの話にリオさんが毎回出るのですが、僕だけ知らないのはどうかと思って」

「なんか恥ずかしいです……どんな話してるの?」

「色々、よ」

「教えてよケチー」



いきなり振られて私は少し考えた後にそう答えた。リオに不服そうな目で見てくる。

仕方ないじゃない。

あんたの日常は私たちにとってはネタなんだから。そんなの本人には恥ずかしくって言えないわよ。


ガイルとハルにも同じような目付きで見上げるが、二人は苦笑するだけで答えなかった。リオは諦めたのか話題を変える。



「やっぱりケーキ?あとは飾り付け?」

「クラッカーやろうよクラッカー。あれ好きなんだ」

「個人の好みを人に押し付けるはダメよ」



私の言葉にハルはしょんぼりとした。

確かにあれは面白いけど、片付けが大変なのよ。テープとか紙吹雪とかけっこう飛び散るし。

それに、一応あれは凶器になり得るから持ち込み禁止じゃないの?

それが顔に出ていたのか、ガイルが私を説得するように言ってきた。



「クラッカーぐらい、僕がこっそり持ち込みますよ。リオさんはクラッカーどうですか?」

「クラッカー、実はやったことないんです。どんなのかは知ってるんだけど」

「ではやりましょうよ!エリーゼさんどうですか?」



ハルのキラキラとした目と悪びれた様子もないガイルの瞳、そしてリオの言葉に私は首を縦に振るしか選択肢がなかった。

私の不満なんて、この三人にしてはくだらないことだろうし。

いいわよ、掃除くらいいくらでもしてあげるわよ。



「こんなところで何やってるの?皆揃って」



そこにちょうどルゥが加わって、リオを筆頭にダースのいる厨房に向かい、そこで作戦会議が開かれた。


ーーーーー
ーーー



「ケーキは何ケーキかな?ショートケーキ?」

と、リオ。


「いや、チョコでしょ。チョコケーキなんて食べたことないもん」

と、ルゥ。


「チョコって高いんだっけ」

と、リオ。


「生クリームは泡立てるのに時間も手間もかかるし、たくさん食べると気持ち悪くなる人がいるからやめた方がいいぞ?」

と、ダース。


「ダースに一票。私生クリーム苦手。たくさん食べられないわ」

と、私。


「じゃあチーズは?」

と、ハル。


「えー、チョコがいい~」

と、ルゥ。


「だから、人に自分の好みを押し付けちゃダメよ!」

と、私。


やんややんやと意見を出し合う。

結局、ケーキはルゥのごり押しに負けたリオが承諾し、チョコケーキにすることになった。

鼻息を荒くさせているルゥ以外の私たちはもはや呆れしかない。

なにこのチョコへの執着心。別にいいじゃないのよ。



「クラッカーは?」

「問題なしです。ちゃんと流通は押さえてみせます」

「さすがガイル!」



ルゥが尊敬の眼差しを向けるがそれをさめた目で盗み見た。

彼のガイルへの態度は目に余るものがある。兄のように慕っているとはいえ、あの本性に遭遇したら動揺するだろうに。

いや、意外とさらに崇拝するかも。



「あまり無理はしないでくださいね」

「お任せください」



リオがあたふたとガイルに言えば、ガイルは爽やかな笑みで自慢げに言った。

ハルが今度は唸り始める。



「料理は?」

「肉でしょ肉!ローストビーフ!鶏の照り焼き!」

「立食形式にしましょうか?座っていてはあまり盛り上がれませんよね」

「とすると、俺の腕の見せ所だな」



ガイルの発言にダースは腕捲りをする真似をする。

一人ではたいへんだから、私も当日は少し手伝ってあげよう。



「じゃあ、私ケーキ焼くよ!チョコケーキ初めてだけど」

「おーし、嬢ちゃんに任せるぜ。ある程度は手伝ってやるが、自分で作りたいだろ?」

「もちろん!」

「僕も手伝います」

「ガイルさんがいれば百人力ですね!」

「いえいえとんでもない」



リリスに拐われてから時間が経ってはいたが、明らかに心を塞いでいたリオ。

サプライズパーティーは、リオに以前の明るさを与えつつあるようだった。


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