*Promise*~約束~【完】
襲撃
そして、遂にやってきた"明日"。
今日、この日が訪れたことによって、何かが始まり何かが終わる。
その何かを知る者はいない。
だが、確実に言えるのは……
今日で、決着がつくということ。それだけだ。
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「ライナット様!ご報告があります!」
「……言え、エリーゼ」
「ガナラの兵が、国境を越えてこちらに向かって来ているとの通達がありました!」
「こんなときにか……!」
ライナットが国境の山脈の方角を急いで見れば、ガナラ側の狼煙が上がっているのが目に飛び込んできた。
すると突然、窓を揺るがす爆風が襲って来た。そして燃え上がる炎。
何が、どうなっているんだ。
「どうやら、バラモンが事前に根回しをしていたようですね」
「完全に袋のネズミってわけだ。身動きが取れなくなった」
続いてシオンとガイルが部屋に入ってきた。シオンは窓のカーテンを閉め、ガイルは腕組みをして壁に寄り掛かっている。
ここから出ればバドランとガナラの戦場に巻き込まれるのは必須で、この場にバラモンが攻めて来ても成す術がない。
「避難経路が全て断たれた今、バラモンと真っ向で勝負するはめになるな」
「ガイル、ルゥとダース、ハルを召集しろ」
「了解しました」
戦力を少しでも固めておかなければ、いざというときに対処できない。
だんだんと近くなってくる外の喧騒に耳を傾けながら、ライナットは彼女の身を案じていた。
「無事でいろよ……」
時刻はちょうど一時を回ったところだ。
サーカス団はすでに移動を始めているはず。ということは、リオが戦闘に巻き込まれる可能性は低い。
だが、ゼロではない。
バラモンはどうやら、二人を一網打尽にしようとしているらしい。
「ライナット様!戦争が始まっちゃったよ、どうしよう……」
「最近その話題はちっとも上がってこなかったのによお。ここタイミングでけしかけて来るたあ面倒だな」
「手当てが間に合えばいいけど……あんなに爆弾を投げ込まれてたら住民に怪我人が出る」
三人とガイルが戻って来たところで、ライナットは言い放った。
一刻の猶予はない。
「リオたちと合流する。各自自分の身は自分で護れ」
「ライナット様が一番だけどね!」
「バカか、命に順番なんてない。行くぞ」
ライナットの命令に皆は頷き合い、ガイルとシオンが先陣を切って部屋から飛び出した。
その直後、カーテンの向こうに覆われていた窓ガラスがパリン、と爆風により割れた。
ガナラの勢力が、だんだんと近づいてきている。
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「わ、ど、どうしよう!戦争だって、爆弾だって、兵士だって!」
「ピーター落ち着いて、あなたが堂々としてなくてどうするのよ。リーダーなんでしょ?」
「う、うん。吸ってー吐いてー吸ってー……ゴホゴホゴホッ!煙くさい」
「こんなとこにまで煙が来てる……早く城に避難しよう!エリーゼたちと合流しなくちゃ」
「リオとセナ、ツェリ、グロースは城に行って」
「ピーター……?」
「僕たちは住民の避難を優先にさせるよ。テントなんて山ほどあるから仮設住宅には持ってこいだからね。とりあえず、この街から出ないと」
急に凛とした顔立ちになると、てきぱきとメンバーに指示を出した。
それをリオはあたふたと見守っていたが、苦手な三人がいきなり現れてリオを拐うように追いたててしまった。
それにピーターは笑顔で手を振ってから自身も街の中心へと走って行ってしまい、リオはピーターと何も言わずに別れてしまった。
三人に拘束されながら城へと向かう。
「あ、あの!私たちも手伝わないと!」
「あんたは黙ってて。何も知らないならなおさら」
「なっ……!」
「あんたは今回の重要な護衛対象なの。ライナット様から命令されたんだから」
「ライナット?」
「あたしたち三人はライナット様の部下よ。サーカス団とつるんでたのは本当だけど、それはここに向かうため」
「だからやっぱり初日公演は参加したいって駄々こねたら、あんたを護るならって言われたわ」
「そんで、あんたとライナット様を合流させた方が安全だからこうやって連れて行ってあげてるの。これでわかったでしょ。あんたの知らないところで様々な人が動いてるって」
「……」
もしかしたら、自分がライナットから離れてしまったのがそもそもの間違いだったのか?
という考えが頭に浮かび上がってきて項垂れた。
離れたことでかなりの迷惑がかかってしまっている。それは、我が儘だったから。
家出をして、サーカス団に拾われて、連絡もしないでそのままだった。エリーゼにはバレたからライナットに伝言を頼んだ。
(たぶん、ライナットは私に裏切られたって思ったはずなんだ)
何も言わずに出て行ったことは、ライナットにはかなりのショックだっただろう。心配をかけただろう。もしかしたら幻滅したかもしれない。
でも、それは彼を信用してないってことじゃない。
セイレーンになって、ルゥが襲われて、その魔の手がライナットにまで及ぶ。
それに、堪えられないと思ったから。自分のせいでライナットが襲われてしまったら、ライナットは自分と距離を置くかもしれない。
セイレーンは、不幸を呼び寄せる。
固定観念だと笑われてしまうような思い込みだけど、たったの一行にも満たないこの言葉にリオは怯えた。
だが、やはり一人では生きていけない。
それでレオのところに転がりこんだものの、サーカスに誘われたときは内心ラッキーだと思った。
サーカスなら、移動する。この街から離れられる。魔の手はライナットに及ばなくなる。
と思っていたのに……不幸は起こってしまった。どんな形であれ、不幸なことは全部セイレーンのせいなのだ。それしかない。
リオはどんどんとネガティブになりながらも、引きずられるようにして北の塔に近づいていた。
彼女にとって、それはもはや絶望でしかなかった。