*Promise*~約束~【完】
「リオ!こっちだよ!」
「あ、ルゥ!」
曲がり角を曲がったとき、ちょうどルゥが走って来るのがわかった。
ルゥはリオたちの目の前で立ち止まると、この先にいるよ、と人指し指で後ろを示した。
誰が、なんて言わずともわかる。
リオは頷いた。
「ルゥはどうするの?」
「俺は街に行って避難の手助けをしてくるよ。生きてる人を少しでも護るんだ。誘導はサーカスの人たちがやってくれてるんでしょ?」
「うん。サーカスならテントをたくさん持ってるし、食料も備蓄が三日分ぐらいあったから、あと一晩は住民の人たちも泊まれると思うよ」
「あたしたちも、リオを送り届けたら手伝いに回るつもりよ」
「わかった」
力強く返事をするルゥに、ふとリオは思い出した。
確か彼は、街で盗みを働いていた。
それは、彼は昔この国を憎んでいたということが関係していたはずだ。裕福ではない自分が置かれていた状況。
孤独。貧しさ。理不尽さ。
望んで道端で寝ているわけではないのに、ケダモノ扱い。汚い物を見るような目付きで見下されてしまう。誰も助けようとはしない。
そのときの向けられる目が嫌いだった。
と、ルゥはいつの日か言っていたのを思い出したのだ。
なのに、彼はそんな人たちを助けようと走っている。
見下されて罵られて蔑(さげす)まれて。
けれども、彼は根本が優しいから……
困っている人を放ってはおけないのだ。
彼の揺るぎない瞳を見てリオは胸がつまったが、今思ったことは彼には何も関係ない。
変わったんだね、と言ったところで、何も起こらない。それに、言わなくてもいいような気がした。
だから、リオはただ笑顔だけを彼に向けてエールを送った。
「頑張ってね!」
「わかってる!ライナット様たちは今カタリナと対峙してるから、リオも頑張れよ!」
「へ?カタリナ?」
「じゃあ俺は行くよ!詳しいことは行けばわかるはずだから!」
「ちょっとー?ルゥ!」
横を通り抜けて走り出してしまったルゥに声をかけるも、手を振られただけで答えてもらえなかった。
だが、言いたいことがもう一つあった。
「ルゥ、行ってらっしゃい!」
すでに薄暗い廊下の角を曲がってしまった彼に言った。届いたかどうかはわからないが、なぜだが言いたくなったのだ。
送り出したのだから、ちゃんと帰って来る。
そんな暗示をかけたかっただけなのかもしれない。
「さて、あたしたちも行くわよ」
「カタリナって、確か第二王子の母親だっけ?」
「そう。一番素性がわかんなかったやつ」
再び向かい始めた三人は色々と吟味している。
「出生もわからないし、年もあやふや」
「馴れ初めもわからず仕舞い」
「まあ、怪しいやつナンバーワンだったかもね」
「でも掴み所が無さすぎて逆に目が向いてなかったかも」
「取り敢えず、目的地まで急ぐわよ!」
この先に何があるかはわからない。ただ、危険な事が待ち構えているのだけはわかる。
感じ取れるただならぬオーラ。ドス黒くて生々しくて、重苦しくて……
悲しい。
そう。唯一の喜怒哀楽中の"哀"の部分。他はすべて"怒"だ。このオーラが今話題に上がっている人のものなのだろう。
(この人も、きっとまだ戻れる)
その泥沼から抜け出して、光を浴びられる日がやってくるはずだ。というより、引っ張ってでも日の光を浴びせなければならない。
事情がよくわからずとも、人には言葉があるのだから、わかり合えるはずだ。
人には心が存在する。以心伝心とまではいかないものの、その心の切れ端に触れることは可能なのだ。
蓋を開ければ、直接それに触れられる。開けるまでには時間はかかるだろうが、開ければ最後、化けの皮は剥がれる。
人間は弱いから、強がってみせたがる。でも、それはただの裏返しだ。
表にひっくり返せば、今まで見えなかった部分が顔を出す。
見ず知らずの人だけど、ライナットたちの敵ということは今までの黒幕はそのカタリナなのだろう。
だが、この胸騒ぎはいったい何なのだろう。
バッドエンドなのか?
その胸騒ぎを抱えながら、皆に急かされて不思議な壁へと突っ込んだのであった。