*Promise*~約束~【完】
新天地
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「凄いね、ちゃんと船着き場があったね」
「無人だけどな」
「道も舗装されてるし」
島にせっせと漕いでたどり着けば、そこは別世界だった。
自然溢れる情景に、人の気配も感じられない。
ひっそりとした森の中は、草が刈られて歩きやすくなっていて驚いた。
しかし、人の手が入っているのは間違いないが、人、が見当たらなければ意味がない。
とにかく、舗装された獣道を歩くしかなかった。
「しっかし、ホント静かだな。不気味なくらい」
「ビビってます?」
「ビビってませーん」
「そうですか」
「うわっ!ビックリした~、蛇の脱け殻か」
「紛らわしいわね」
リオがいきなり声を上げて前にいるライナットにしがみつけば、エリーゼはリオの見つけた脱け殻を足で隅に退かした。
ここは、かなり自然が豊富らしい。
リオは心細いのか、そのままライナットの袖を握りながら進む。
ライナットはまだ眠いのか、欠伸を噛み殺していたがリオに神経が集中しているため、次第に目が冴えてきた。
すると、僅かに感じる気配。
「……なんだここは」
「どうかしたの?」
「ごちゃごちゃだ。入り交じっている」
「見えてきたな」
「あっ!」
道の先に見えるのは……集落。
木造の家がぽつぽつと見えてきた。
僅かに人の声も聞こえてくる。
「なんか、緊張するね」
「未開の地に足を踏み入れるわけですからね」
「でも、弱音を吐いてる場合じゃないわ。ここは理想郷なんだから」
先頭のガイルが足を踏み入れた瞬間……
人だかりに飲み込まれた。
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老若男女問わず、全住民に取り囲まれてしまい立ち竦む一同だったが、その瞳に悪意が無いことを見てとり安堵した。
悪意というよりも、好奇心が勝っているといった感じだ。恐らく、ここにライナットたちが来ることは事前に知れ渡っていたのだろう。
「ついて来てください」
人だかりからぬっと現れた女性。
リーダー的存在なのか、彼女が一言発すれば住民は黙ってしまった。しかし、好奇心はまだまだ抜けないらしい。
堂々とした出で立ちの女性の後ろをついて歩けば、住民もまたついて来る。
その様子に、どこかの先住民か?と思ってしまうほどの戸惑いを感じた。
歓迎されているのかどうかすらもわからない。
「入ってください」
ある小屋の前まで案内され、ドアを開けて促された。
目配せをして僅かに頷くと、ガイルが先に足を踏み入れ次にシオン、エリーゼ、リオ、ライナットの順番に入った。
すると、一人の男性が床に座って待っていた。
彼は若干年配のようで、白髪が混じった黒髪を短く刈り、身体の横には杖が横たわっている。
だが、彼の目元は包帯で巻かれていて素性がわからなかった。
「村長、連れて来ました」
「ああ」
村長と呼ばれた男は短く返事をした。
しかし、その声を聞いた瞬間、リオは地べたに座っている状態のまま、爪先から頭の天辺まで電流が走ったような感覚を覚えた。
いや、頭から雷を落とされたような感覚にも似ている。
「村長は両目を失っておられるため素性は晒せませんのでご了承くださるよう」
「いや、望まれれば喜んでこの包帯を解きましょう」
「その必要はない。それに俺たちはおまえの正体を知っている」
「……え?ライナット……?」
「?!そ、その声は……」
リオが裏がった声で隣にいるライナットを見れば、今度は前方から震える声が聞こえてきた。
パッと振り向けば、男が口をわなわなとさせながらリオを向いていた。
(そんな……まさか……)
「ここにいるのは間違いなく、おまえの娘だ……アラカルト殿」
「リオ……リオーネなのか……?」
「お、父さんなの……?」
「俺たちは席を外させてもらう。親子水入らずで膝を交えることだな」
「感謝……申し上げる」
「行くぞ」
ライナットは三人を引き連れていったん退出した。
案内した女性は男をしばらく見ていたが、まるで自分の存在を忘れたかのように声もかけてもらえないため、渋々退出することにした。
だが、人払いがすんでも二人はお互い言葉を発せずにいたが、男の包帯がみるみるうちに涙でしっとりと滲み始めたため、リオは確信し傍に寄って話しかけた。
「お父さんなの?ねえ」
「……ああ。リオ、よく生きていたな……」
「うん。村は焼かれたけどライナットが助けてくれた」
「そうか、そうか……よかった、よかった……」
そして、男性はおいおいと泣き出した。
包帯を目に押し当てて泣くその姿に、リオは何を言えばいいのかわからなくなってしまった。
というよりも、今は言葉なんていらないんだと思った。
リオがそのまま父親の手をぎゅっと握れば、しっかりとした力で握り返してくれた。
まるで、もう離さない、とでも言うかのように。
しかし、何かに気づいたのか父親はハッとした。
「これは……指輪か?薬指なのか?」
「え、ああ、ええっと……」
「結婚したのか?」
「正式にじゃないけどね。ライナットと、ね……」
「先ほどの若者か。あの者は芯がしっかりとしているように感じられた。一切の迷いもなければ、不安もなかった」
「そうだね。今まで一人じゃないようで、実はずっと一人で戦ってたような人だから……私の頼れる存在だよ」
「同情ではないのか」
「同情じゃないよ!ただ、一緒にいたいと思っただけで……彼をもっと知りたいと思ったんだ。例え嫌われても、核心に触れたいって思った。さらけ出して欲しいって思った。
……だから受け入れたんだよ」
「どうやら、それは彼も同じのようだな。彼を呼んで来てくれないか?おまえは今度は出なさい」
「……うん」
リオが言われた通り外に出れば、わかりきっているのか、口を開く前にライナットは小屋に入って行ってしまった。
すれ違い様に肩が僅かに触れたが、軽くポンと手を置かれた。
それは、心配するな、と勇気付けようとしているようだった。
リオは後ろ髪を引かれるような思いで、閉じていく扉を見送った。