*Promise*~約束~【完】
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「私のこの両目は戦争で失ったのだ。避けたものの避けきれず、切っ先が私の目を切り裂いた。大量出血で倒れ生死の境をさ迷っていたのだが、ある集団が私を助けた」
「その集団はここの者たちか?」
「その通りだ。彼らは戦争で傷ついた者たちを旅をしながら助け、仲間にしていた」
「よくできた話だ」
「私も最初は得体の知れない連中に連れて行かれ疑いの心を持っていたが、決して彼らは同情で動いていないのだとわかった。なぜなら、私はその後ほったらかしにされたのだよ」
目の前の男性が思い出し笑いで鼻をフッと鳴らすものだから、ライナットは警戒心を解いた。
しかし、罪悪感だけが募る。
「何か行動に起こさなければ食事も与えてもらえなかった。働かざる者食うべからず……それで、私が作物の育て方や動物の飼育方法のいろはを教えたところ、実際にやってみたい、と皆口々に言い出したのだ。
旅をしていた彼らは常に生活は綱渡りで、野宿も当たり前、一日二食も当たり前で限界だったらしい」
「それで、あなたがここに棲むことを提案したと」
「いや、ここは彼女……君たちを案内した者の所有地だ。彼女は由緒ある正しい家柄の子息だったのだが、何か人のためになりたいと勘当されてまでこの活動を始めたらしい。そのときに、この島を譲ってもらったそうだ」
「スケールの大きい話だ」
「しかし、私たちの生活の場となっている。土地もいいし風もいい。自給自足に向いていたのが幸いだった」
「アラカルト殿、聞きたいことと単刀直入に言いたいことがある」
「では、聞きたいこととはなんだね?」
「あなたは、天使と悪魔の存在を信じるか?」
「もちろん。私が住人にそれに該当する者が混じっていると知っているのか確認したかったようだね。だが、それは取り越し苦労だ」
ライナットは涙が乾いてカピカピになっている包帯の窪みを見つめた。
初老にしては凛とした声。耳の感度もよくちゃんと相手の声のする方向を向いている。
ただ、その瞳がこちらを向いていない……
「では、単刀直入に言わせてもらう……あなたの目を潰したのは、間違いなく俺も関係している」
「……続きを」
「俺の出身はバドランだ……恐らく、あなたが戦っていた相手の国だろう」
「確かに、間違いなくバドランだ。しかし、君に非はないのではないか?」
「俺の名前はライナット=バドラン……バドランの第三王子だった者だ」
「……だが、過去形だな」
「経緯を話せば長くなるが、噛み砕いて言えば……野望のために罪を重ね、その天罰が降(くだ)された……俺はそのための犠牲を生み出したにも関わらず、運よくのうのうと生き延びている。
……俺は、生きる価値のない男なんだ」
「それは私も同じだ。生きる価値のない、女の一人や二人も護れない憐れな男だ。リオの母親については知っていると思っていいかね?」
「はい。リオから聞きました」
「私も、この目は天罰だと思っている。愛した者を護れなかった私への戒めだ……例え、君が私の敵であったとしても、直接私の目を潰したのではない。それに、私は目を失って気づいたこともたくさんあった……悪いことばかりではないよ。君もそうだろう?」
「……まだまだ話したいことがあるのですが」
「まずは、連れを安心させてあげた方がいい。それで、君はここに何をしに来たのかな?」
「……リオを、貰いに来ました。そして、共にここで棲むことを承認していただきたい」
「"共に"に、私は含まれているのかな?」
「……あなたがよろしければ」
「ハハハ、できれば"あなた"ではなく"お義父さん"と呼ばれたいと思うのは私の勝手かい?」
「……!」
リオの父親は責めるわけでも怒るわけでも拒絶するわけでもなく、
ライナットを最初から受け入れていた。