*Promise*~約束~【完】


「ライナット、何見てるの?」

「ん?……まあ、な」

「教えてくれないの?」

「……どうせ、わかってるだろうからな」

「ライナットの口から聞きたいよ」

「じゃあ言わない」

「ケチ」

「生意気だな」



と、唇にキスを落とされた。


この島に移り住んでから早一年。

お父さんとネルさんの指導のもと、自給自足の生活を送っている。

今ではやっと牛から乳が出始めた。牛乳を得るまで、仔牛から育ててなつかせて、大人になったら妊娠させて子供を産ませて……そこでやっと乳が出る。

お父さんから一からやりなさい、と命令が下されたときは前途多難、暗中模索……とにかくがむしゃらに知識を詰め込んで実践した。

それが実を結んで、今では鶏も増えて卵がとれるし、馬を乗りこなして島を回りながら食材になる山菜を採れるようになった。

馬の乗り方はライナットに教わったけど、馬の育て方は彼は知らなかったみたいで、興味津々でお父さんの話を聞いてたな。


でも、やっぱりふと思い出す人が一人だけいるんだ。


作業を手伝ってくれる男の手……ディンは今頃何してるのかな。お父さんとははぐれちゃったみたいで、行方は知らないって言ってたし。

死んでないといいのにな……また会えればいいのに。


ぼーっと遠くを見つめていれば、ライナットに頬に手を添えられて顔の向きを変えられた。



「何考えているんだ?」

「んー……まあね」

「教えろよ」

「……わかってるくせに」

「おまえの口から聞きたいんだ」

「言わないよーだ」

「生意気だな。この口が言っているのか」



……また、キスされた。でも、わかってるんだよね、きっと。

ライナットは私の心の穴を然り気無く隠してくれる。

その優しさに触れる度に、もっと触れたくなってしまう。



「……お返し」



とばかりに、ライナットにキスをしてやった。

そしたら、ライナットは目を見開いたかと思えば拗ねたように言ってきた。



「煽ってんのかおまえは」

「え、何を?」



なーんか、ヤバいぞ?



「……今夜覚えておけよな」

「うう……」



確かにお父さんとは別棟に住んでいるけど……あからさまに昼間っから言われれば恥ずかしいもので。

さっきの男の顔をしたライナットが忘れられなくて悶々としていれば、馬に首を傾げられてしまった。鶏にはズボンをつつかれるし、産まれたばかりの仔牛にはど突かれるし……

でも、こんな生活も悪くないって思ってる。少しずつ、心の穴が小さくなればいいんだ。だけど、決して忘れたいとかじゃなくてね……

ライナットに全ての罪が擦(なす)り付けられたこととか、戦争のこととか、拐われたこととか、川に流されたこととか……ディンと離ればなれになったこととか。

嫌なことはあったけど、でも嬉しかったこともちゃんとあった。


人生ってそんなものなんだなって受け入れたよ。



「筋肉痛が痛いな……」

「おい、さっさと行くぞ。ここに置いて行かれたいか?」

「ひいぃぃ……」



厳しいことも、嬉しいことも、悲しいことも、苦しいことも……

全て共有したいと思える人がいるのは、とってもとーっても幸せなことなんだよね。当たり前になってしまって気づかなかったけど。


だから、彼に追い付いて言ってあげたんだ。

そうしたら、歩くのをやめて抱き締められて返されたんだ。



「俺も……愛してる」



ねえライナット、約束だよ?


ずっと……


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