NIKU
「おめでとうございます。3か月目に入っていますよ」

医者は彼女にむかって微笑みかけた。

「……、ありがとうございます」

一瞬の沈黙の後、彼女もまた微笑み、まだ膨らんでもいない下腹部に手を当てる。

彼女の一瞬の躊躇いは、医師に伝わることもなく「おめでとう」で流された懐妊は、その夜、彼女の口から夫に告げられた。

「やった!予定日はいつ?ここに俺の子がいるのか」と、嬉しさを隠しきれない夫は、彼女の下腹部に手を当てる。

「6月30日だって」

彼女は冷静に答え、いつもの習慣で煙草に火を点ける。

「おいっ、それやめろよ、それから甘い物ばっかり食べるなよ。肉も食わなくちゃダメだぞ」

彼女が口にした煙草を素早く阻止した夫。

「わかってるよ、本数を減らすだけ。それに、つわりみたいでお肉食べると吐きそうなんだ」

そう言って彼女は、チョコを口に入れた。その日、彼女の食べた物は、板チョコ10枚。カップのアイス5個。数えきれないキャンディーの数とドリンクはコーヒー牛乳。全てが糖分で成り立つ食品ばかりだった。

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