当て馬ならし
その心遣いに感謝しつつ
馬車を降りる。
手を貸してくれたまだ新米の騎士に
笑顔で言う
「馬車旅でだいぶなまったわ、
 明日は早くから稽古したいからよろしく」
心配の色の濃い目で私を見つめた新米騎士は
「ごゆっくりされたほうがよいのでは」
と気を使ってくれているのがよくわかる。
「私に負けるのが怖いの?
 お父様直伝の剣術よ、
 おとなしく稽古台になっておきなさい」
軽口を叩いて颯爽と自室へと向かう。

本当は、何かしていないと
ふさぎこんでしまいそうだった
とにかく体を動かしていたかったのだ。

小さな頃からお転婆だった私は
近衛兵隊長だった父の才能を
すこし受け継いだようで
剣術の稽古が楽しくてしかたなかった。

父は王になってからも
騎士たちの稽古を自分がつけていた。
そんな姿を見て
そのきらめく白刃を自分も操りたい
と思ったのだった。
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