当て馬ならし
まず、驚いたのは兵士だ。
いつの間にといって驚かれたが、
とりあえず芝居の途中で
気分が悪くなって帰ってきて
しばらく寝てしまったと伝えて
ハトナに来てもらう。

ハトナは私の突然の
不自然な帰還よりも、
連日の体調不良を心配した。

それが、嬉しくて・・・
そして心配をかけてしまったことが
申し訳なくて
何もはなせず、結果的に騙している
・・・そんな複雑思いが胸にあふれた。

抱きついて「ごめんね」っていったら、
おもった以上に声が湿って
泣きそうになった。

ハトナは私の背中を優しく
ぽんぽんとたたいてベッドへ連れて行く。

「慣れない土地では誰でも
 気が張るものです。
 そのお疲れがでてるのでしょう」
表情も言葉も相変わらず冷静だ。
でも、ベッドに座らされて
手を優しく握ってくれる

私より歳はずっと上であろう
この冷静に仕事こなすメイドが、
他国の姫である私を大切に思ってくれている
その事を私は知っている。
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