当て馬ならし
恐る恐る中に足を踏み入れる

「こんばんは・・・」
書庫という空間が
夜であろうと大きな声を出すのは
はばかられる。

先ほど見えた人影を探し
奥へ行ってみる。

本の匂いがする。
インクや紙、
表紙に使われる皮、
本棚の木の匂い
それが本が過ごしてきた時間と混ざって
落ち着く空間。

明かりの、濃い橙色が
この空間を琥珀色に染めて
ここだけ時間が
ゆっくり流れてるんじゃないか
と思わせるほど。
ここを作った人は
本が大好きなんだろうなぁ。

空間の雰囲気に酔っていた私の耳

「ん?」
男性の声が聞こえた。
ハッとしてその声の主を探すと
本棚の影から数冊の分厚い書籍を抱えた
長身の男性が歩いてくる。
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