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当然、と言ってはなんだけど、あの夜何もなかった、なんていうのも嘘だ。

帰りのタクシーの中でハルは深く眠ってしまったので、抱き抱えて家に帰った。

お姫様抱っこというのは最初はいいけど、長くは持たない。

それは僕が腕力に自信があるタイプじゃない、ということだけが理由ではない。

たいていの男は、あれはキツイと思う。

格好つけないで、背中におぶって帰ればよかった。

でも、そのお陰で僕は、腕の中に彼女の重さや温かさや、その感触を知ってしまった。

もう、絶対に忘れられない。

ただでさえ再会の瞬間に溺れてしまったのに、僕はもう取り返しのつかない深みまで落ちてしまった。
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