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私は、少しずつ戻ってきた思考を頼りに、ポツポツと話し始めた。

「私ね、自分が傷付いていることに、寂しいことに気が付きたくなかったみたいなの」


「きっとね、強く言って事を荒立てると気が付いちゃうから、自分を騙そうとしてあんな状況でも強く言えなかったんだと思う」


「さっき、急にお父さんのことを思い出して」


「私ね、子どもの頃にお父さんに怒鳴られて、すごく辛かったんだ」


「怒鳴られないようにいつもビクビクしてて、あの頃は『お父さんが怒鳴らない私』をずっと演じてたんだと思う」


「でも本当は、怒鳴られたことより私が『私』でいられなかったことに傷付いてたんだってわかったの」


「あの時『大っきらい』って突然言っちゃったけど、浩介に言ったっていうより、お父さんに言えたような気がして、そしたら急に涙が止まらなくなっちゃったんだ」

和馬はじっと黙って私の話しを聞いていた。
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