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僕はいつまでお利口に敬語を使っていられるだろうか。

今にもキレそうな自分を抑えるので精一杯だ。

「いいからここに座って。これからのことを話しましょう」

「これから?」

キレぎみに返した僕に、怜奈は全く動じる様子もなく、巻き髪を誇張するように触った。

「そう、これからのこと。私たちが一緒にいるのが一番いいと思わない?」

「思いません」

即答した。

どうしてそうなるんだ。

「いい加減、諦めて。あなたは父のお気に入りなんだし、一番いい選択肢なのよ」

僕の師匠のお気に入りなんてたくさんいる。

あの人は温厚で交友関係がとても広い。

僕はとても尊敬している。

なのに、どうして娘はこうなんだ。

あの人、甘やかし過ぎたんじゃないのか?

「そんな選択肢はありませんから。諦めるのは怜奈さんの方ですよ」

「早く父を安心させてあげたいの。あなたにもそのくらいわかるでしょう?」

怜奈は頬に手をあて上目遣いで僕を見上げた。

本当は父親なんて関係ないくせに。

自分が安心したいだけだろう?
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