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「僕じゃなくて別の人をあたってください」

「あなたじゃなきゃダメなの」

怜奈は猫撫で声を出して立ち上がった。

こっちに来るなよ、と思ったのに怜奈は近付いてきて、僕はじりじりと後ろにさがった。

怜奈は今までとは比べものにならないくらい、猛烈に積極的になっている。

まるで獲物を前にした猫科の猛獣のようだ。

そんなに焦っているのか?

年上って言ってもそんなに年じゃないだろう。

怜奈はあっという間に距離を詰めて、目の前までやって来ると、僕に手を伸ばした。

「やあね、怖がらないでよ」

「僕は触られたくありませんから」

少しハッキリ言い過ぎたと思った。

怜奈の目つきが少し変わった。

「触れたらその考え、変わるかもよ?」

怜奈は勢いよく、なんのためらいもなく僕に抱き付いた。

「ね?」

目一杯体を擦り寄せる感触に嫌悪感を感じる。

こんなの、僕がほしい感触じゃない。

怜奈から香水の匂いがした。

ハルからはしない匂い。

僕はハルの洗いたてのシャンプーの香りが好きだ。

ハルのものだったら、僕は何でも好きなんだ。

ハルが同じ香水をつけていたら、きっと好きな香りになっただろう。

でも、今はこの匂いを不快としか思えない。

人を好きになるって本当に不思議だ。
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