ページをめくって
ハルはそんなにたくさんは泣かず、すぐに落ち着いた。

「ごめん、もう大丈夫」

「うん。じゃあ荷物まとめる?」

「うん」

ハルが僕の家に送る物は、冬服と本と少しの雑貨くらいなものだった。

あとは全部捨てるらしい。

本を取り出して段ボールに入れていると、ハルは目に付いた本をうっかり読もうとするから、作業がはかどらないことに気が付いた。

「帰ってから読もうよ。早くしないと郵便局の人、来ちゃうよ」

「あ、ごめんっ。つい、懐かしくて」

「本、好きなんだね。服よりもたくさんあるんじゃない?」

「うん、そうだね。紙の本は場所をとるから電子書籍にしたんだ」

「ふーん」

ハルは本を開いてパラパラとめくった。

「でも、こうやって本をめくる紙の感触も好きなんだ。わくわくする感じで」

「それはなんとなくわかるような気がするよ」

ハルはにっこり笑った。

「和馬に会ってから、私だんだん変ってきたと思う。それに今まで知らなかったいろんな和馬も見られたし。今は一日一日が新しいページをめくっているみたいに思えるんだ。早く続きが読みたいなって。すごく前向きになれたんだと思う」

それを聞いて僕は愕然とした。

そんな純真な乙女の夢を見るような感覚で君はいたのか。

あんなにたくさん泣いて、思い出したくもないことを思い出して、辛い思いをしたんじゃないの?

僕は癒えない生傷を更に切り裂いているつもりだったのに。

でも、君がそう思えるなら、僕には一つも悔いはない。

「じゃあ、一緒に続きを読もう」

「うん」

ハルはあの輝く笑顔を僕に向けた。
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