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「……ええ、わざと言ってます。はい、そうです。彼女に聞こえるように」

私と目を合わせたまま、和馬は微笑んだ。

わざと言ってるなんて……。

私がなかなか信じなかったから、あの時も師匠に電話しようかって言ってた。

ちょうど電話が来ていい機会だとか思ってる?

「……えっ?それはちょっと……。はい、では本人に聞いてみますが……」

和馬は少し困った顔をした。

「君と話したいって。どうする?」

「えっ」

そんな……、いきなり話をするなんて。

どうしよう。

怒られたりするのかな。

将棋のことを言われても全然わからないし。

私が不安な顔をすると和馬は微笑んだ。

「無理しなくていいよ。やめておこうか?」

でも、それじゃいけない気がした。

「ううん、大丈夫。お話させて」

和馬は少し心配そうな顔をしたけど、携帯電話を渡してくれた。

緊張して喉が渇いた気がして唾を飲んだ。

「……お電話代わりました」

『お嬢さんが篠原君の意中の人?』

その声はとても優しい声だった。
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