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「えっと、それは……はい」

「彼、ずいぶん夢中みたいだから』

声の感じ、けっこうお年なのかな。

「そんな。……すみません」

『彼、私が君と話すの嫌がるだろうと思って、代わってもらっちゃった』

「え?あ、はい……」

和馬に意地悪してる?

ちょっとお茶目?

和馬の意地悪は師匠譲り?

電話の向こうの声は楽しそうだった。

『いやいや、実はお嬢さんにお願いしたいことがあってね』

「は、はいっ」

私にお願いなんて、なんだろう……。

ドキドキする。

私に出来ることなんてあるのかな。

『篠原君って観察力があるから、人の気持ちが分かり過ぎるみたいでね』

その通りだと思った

『それは良いことなんだよ。でも私らの世界は食うか食われるか。勝つことが全てだからね。勝負の場面で相手の気持ちが分かるのは強みにもなるが弱みにもなる。相手の気持ちを考えるなんて、彼、優し過ぎるんだよね。お嬢さんにはわかるでしょう。彼、優しいでしょう?』

「……はい」

本当にそう。

そうやって言葉にされたら急に和馬の優しさを強く感じて胸に刺さった。

和馬が優しさを理解してくれている人がいて、嬉しかった。

電話の向こうの和馬の師匠って人もきっとすごく優しい人なんだ。

その優しさにあてられて、感情が昂って泣きそうになった。
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