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不動産屋さんとの待ち合わせ時間に合わせて、家に向かった。

自分の家なのに、いつも和馬が一緒に来てくれていたから、一人で家に帰るのは久しぶりだった。

ついこの間まで住んでいたのに、もう懐かしい感じ。

浩介の手紙にはとても驚いた。

手紙なんて初めて貰ったし、ごめんとかありがとうなんて言葉、一緒にいた時には聞いたことがなかった。

苦しかった日を沸き上がるように思い出して、手紙から浩介の後悔を感じた。

あの手紙を見たのが昔の私だったら、きっとまた追ってしまっていたと思う。

その1%の優しさを追いかけてしまって、すがりついていたかもしれない。

でも、今は違う。

あの手紙は浩介なりの別れの言葉。

私に追いかけて来てほしいわけじゃない。

浩介には浩介が優しくできる人がきっといるんだと思う。

それが私ではなかっただけで。


急に立ち会いをお願いしたから、やって来た不動産屋さんは機嫌が悪かった。

煙草の匂いや汚れを指摘されて、敷金の話をして、鍵を返して、私のこの家での暮らしが終わった。

もうこの家に「帰る」ことはない。

この家での暮らしはすごく辛くて苦しかった。

でも、あの苦しい思いをした私が今の私に繋がっている。

だからこの家での暮らしを後悔はしていない。

今の私になれたからこそ、今の和馬と一緒にいられると思うから。
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