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今日は絶対に早く帰ろうと思っていたから、最初から和馬とは6時に約束していた。

メールで『うちの社内ですごい噂になっちゃってるから、迎えに来なくていいよ』って伝えたのに『じゃあ駅ならいいでしょ?』って返事がきたから、駅で待ち合わせをすることにした。

もう頑張って頑張って、後半はすごいピッチを上げてなんとか6時前に仕事を終わらせた。

周りから、彼に会うために早く帰ろうとしてるって目で見られていることには気が付いていたけど、そういうのはもう気にしない。

「お先に失礼します」と言って席を立つと、小林さんがにっこり笑って「お疲れー」と言ってくれた。

やっぱり素敵な笑顔。

小林さんの心遣いが嬉しくてペコッと頭を下げてから、急いで会社を出た。

駅に向かって息を切らせて走っていると和馬が見えたから、声をかけようとしたら総務部長の姿も見えた。

二人で話している。

こうなることを避けるために駅で待ち合わせにしたのに、結局見つかっちゃったんだ。

近寄っていいのかわからなくて少し離れて見ていたら、和馬は私に気が付いて総務部長に軽く頭を下げると私の方を見た。

「じゃあ明日、頑張って」

総務部長はそう言って和馬の腕を叩くと、私に意味深な微笑みを向けてから去って行った。

和馬は私の方に歩み寄ってにっこり笑うと、手を繋いだ。
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