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そういえば、総務部長と話してたけど、サインどうしたんだろう。

「さっきの人、うちの会社の総務部長なんだけど、サイン欲しがってたよ?」

「うん、書いたよ」

本当にサインなんて書くんだ!

恐る恐る聞いてみた。

「サインって、……どんなサインなの?」

「名前を書くだけだよ」

「それだけ?」

「うん。拍子抜けした?」

「だって、サインなんて聞いてびっくりしたんだもん」

「まあ、そうだよね」

そう言って和馬は笑った。

その笑顔を見て、この人は私の知らない世界では有名人なんだって今になって気が付いた。

和馬、全然そんな風に見せないから。

「こんな有名だなんて、知らなかった」

「詳しい人しか知らないよ」

「でも……」

なんだか急に遠い人みたいに思えて、寂しくなってきた。

どこかに行ってしまいそうな気がして、握った手に力を入れた。

「ハル?」

「なんか、急に手の届かない人になっちゃったみたい……」

「そんなことないよ。今だって一緒にいるじゃない」
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