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「そういえば、前から思ってたんだけど、ハルは『頑張って』って言わないんだね」

「うん。だって、和馬はいつもすごく頑張ってるでしょ?頑張ってる人にこれ以上頑張って、なんて言えないよ」

「そっか」

「だから明日はいつも頑張ってる分、思う存分やりたいようにやればいいと思う。それで間違ったとしてもいいと思う」

「間違ったら負けちゃうよ」

「でも、それだって次に繋がるんでしょ?振り返りたくないことほど振り返った方がいいんでしょ?」

「その通りです」

「じゃあ、明日は思う存分やってきなさい」

「はい」

そう言ってから、二人でクスクス笑った。

そのままそっと腕を撫でていたら、静かな寝息が聞こえてきた。

眠れたんだ。

眠れないことがあるなんて知らなかった。

和馬は常に勝ち負けが支配する世界に身を置いている。

それって、私が想像するよりずっとすごい重圧なんだろうな。

私には、どうやったってその感覚を正確に理解することはできないと思う。

それはきっと棋士同士じゃないとわからない。

だから、私はわからない人にしかできない方法であなたを支える。

和馬、大丈夫だよ。

勝っても負けても、和馬は前に進める。

言葉だけじゃなくて、私は本当にいつもあなたの味方だからね。
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