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浩介はうつ伏せに寝たまま動かない。

彼女は私の目も気にせず、さっさと服を着て、手鏡でまつ毛や口紅のチェックをすると立ち上がった。

「じゃあコウちゃん。あたし帰る。またねぇ」

彼女は立ちあがってからすれ違うまで、ずっとニヤニヤ貼り付いた笑顔で私の目をじっとりと見つめてきた。

そして、聞こえるギリギリの声で「だっさ」と呟いた。

まだ感情が麻痺して判断能力はなかったけど、その女の挑戦的な表情があまりにもわざとらしくて、むしろ冷静になっていく自分を感じた。

浮気現場に鉢合わせして、知らない女のあんな顔を見ることになるなんて、自分がそんな経験をするなんて思ってもみなかった。
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