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 (6)飯炊き女のスパイラル

私が立ち上がると、和馬は横からキャリーバッグをひょいっと持ち上げた。

「あ、いいよ。私持って行くから」

「君がこんな大きい荷物を持ってるのに、僕が手ぶらなんておかしいでしょ」

「おかしくないよ」

「おかしいよ」

和馬はくすくすと笑った。

「ハルは昔から甘えない子だったね」

「え?うん」

「というより、甘えられない子、かな?」

和馬は私の心を読んでいるみたいに、どんどん言葉を重ねてくる。

確かに、私は昔から甘えるのが下手だった。

今もそう。

「いいから、少しは甘えて。こんなの甘えた内に入らないけど」

そう言われて、居心地の悪さを感じつつ、私は甘えてみることにした。
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