命の足音【短編ver.】
刀を握ることはおろか、布団から起き上がることすら出来ない僕に、桜は文句も言わず世話をしてくれる。
桜がいつも作ってくれる粥は、塩を降っただけの質素な物ではあるが、すごく美味しい。
「……ねぇ、桜」
「なに?」
「最近の戦はどんな感じか知ってる?」
そう、いつものように聞くと、桜はふと手を止めて口を開いた。
「江戸で、戦が起こる予定だったんだけどね。勝海舟さんが動いて、江戸城は向こうに明け渡されたんだって。だから……ここで戦争はしないみたい」
「……そっか」
再び運ばれた粥を噛みながら考える。
後に戊辰戦争と呼ばれるこの戦。
“向こう”というのは、薩摩や長州などだろう。
ということは、僕や近藤さんが生まれ育ったこの江戸は、血にまみれないのか。