形なき愛を血と称して
それが成功したのは、何十年後の話だと聞いている。
化け物ーー吸血鬼と言う名が浸透し始めた時に、見つけたのだ。
快楽の正体。吸血鬼の“牙”を。
人間で言う犬歯、この二本で吸血鬼は人肌に傷をつけ血を啜るわけだが、その際、牙に付着している微生物が体内に侵入し、人間の血液と溶け合い、神経に影響を及ぼす。リヒルトも顕微鏡で見たことあるが、茹だった腸のような吐き気を催す生き物であった。
こんな物を体内に取り込む奴の気が知れないが、肉眼では見えない物など見せなければいいだけの話。
吸血鬼の牙を使った薬が出来るのは、そうかからなかった。
こちらの世界でも、そういった薬が市場に出回っていたのだ。快楽を招く薬の一つとして、カウヘンヘルム家の物も市場に流れる。
他の薬が副作用を招くにも関わらず、牙より精製された薬はまったくのリスクを伴わない。
幻覚症状も、脳の萎縮も、だからこそ、依存性が高い。
そこはカウヘンヘルム家の誤算であった。需要と供給の天秤が傾き過ぎて壊れる。薬の精製に不可欠な牙の調達が困難を極めたのだ。
人外を招く召喚術は、素質あるものしかなし得ぬ技。いざ呼び出した吸血鬼に、殺されてしまった術者も数知れず。上がりきった場所から落ちるのは早かった。