形なき愛を血と称して
クウンと鳴いた牧羊犬さえも、道具だと微笑み言ってみせるリヒルト。
少し前までは、道具しかいない世界だったのにーー彼女が来てからがらりと変わってしまった。
「“道具が道具を使う世界”なのに、トトちゃんのせいで、人並みになりたくなったねぇ」
「メエメエで、何言っているか聞こえませーん!」
「トトちゃん大好きだよー!」
「私も大好きですー!きゃー、羊があぁ!」
牧草地の真ん中で愛を叫ばれたものだから、リヒルトが満足げに頷く。
そろそろ助けるかの面もちを察した牧羊犬は、一鳴き。
「ラズ、行け」
ゴーの合図は顎。くいっと動かすだけで、牧羊犬ラズは駆け出す。
習慣付いた追いやりは、羊たちも当たり前のように行動する。
赤い屋根の羊舎になだれ込む綿飴。輪を乱すものあらば、たちまちラズが吠えて牽制する。
「きゃー、ラズがあぁ!」
そんなラズを怖がり、羊と共に羊舎に入ってしまう彼女を助ける役目は恋人こそが相応しいであろう。
「ほんと、あれで化け物部類の子なんだから」
笑ってしまう。
本来ならば、彼女とはこういった関係を望めないはずなのに。
「うぅ、リヒルトさああん!」
何の疑心も持たずに、ただ自分を求めてすがりつく体を捕まえる。
傍に置き続けるために、捕まえておくんだ。