形なき愛を血と称して
『愛されなかったんだね、君も』
「クッ」
“これが、そうか”と、笑ってしまう。
その様子にトトの舌先が止まるも、リヒルトの指が代わりに動く。
ざらつく面に指の腹をこすりつけ、鉤のような形にして舌先に引っ掛けても見る。
暴れるかのような指先に苦悶する彼女。収めようと舌が動くが逆効果。
「息、止めないで」
血液が吸われ冷たくなる指先に、熱い吐息がかかる感覚を失いたくはない。
そんな注文をせずとも、トトの息は荒くなるばかり。音を上げたのは、それから間もなくしてだった。
「リヒル、ト……さ、ん」
ぐったりとした面持ちのトトが、リヒルトの膝にもたれかかる。
「おいしかった?」
「ご、ごちそうさまです」
体力を消耗する食事。空腹も満足感で満たされたこともあって、トトはそのまま眠りについた。
相変わらず床にしか座らない彼女。足元のマリーゴールドに触れる。
「君といると、僕が僕でなくなるようだ」
トトの言葉を借りるならば、それは薬を使った吸血鬼に対しての物だが。
「それでも君が逃げないのは、僕が怖くないからだよね」
ーー歯車が一つ、崩れる。
続けざま、隣り合わせの歯車も同じ末路を辿っていく。
無機質な空間がまっさらになる。
まっさらになったことで、光が差し込んだ。
真っ白な光が。