形なき愛を血と称して

『愛されなかったんだね、君も』

「クッ」

“これが、そうか”と、笑ってしまう。

その様子にトトの舌先が止まるも、リヒルトの指が代わりに動く。

ざらつく面に指の腹をこすりつけ、鉤のような形にして舌先に引っ掛けても見る。

暴れるかのような指先に苦悶する彼女。収めようと舌が動くが逆効果。

「息、止めないで」

血液が吸われ冷たくなる指先に、熱い吐息がかかる感覚を失いたくはない。

そんな注文をせずとも、トトの息は荒くなるばかり。音を上げたのは、それから間もなくしてだった。

「リヒル、ト……さ、ん」

ぐったりとした面持ちのトトが、リヒルトの膝にもたれかかる。

「おいしかった?」

「ご、ごちそうさまです」

体力を消耗する食事。空腹も満足感で満たされたこともあって、トトはそのまま眠りについた。

相変わらず床にしか座らない彼女。足元のマリーゴールドに触れる。

「君といると、僕が僕でなくなるようだ」

トトの言葉を借りるならば、それは薬を使った吸血鬼に対しての物だが。

「それでも君が逃げないのは、僕が怖くないからだよね」

ーー歯車が一つ、崩れる。
続けざま、隣り合わせの歯車も同じ末路を辿っていく。

無機質な空間がまっさらになる。
まっさらになったことで、光が差し込んだ。

真っ白な光が。


< 35 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop