形なき愛を血と称して

昨日、リヒルトが傷をつけた指だ。絆創膏だけの簡単な手当てを労るトト。その時だけ、我がこと以上のように顔を曇らせていた。

「痛く、ないですか?」

「……」

またか、とリヒルトは思う。

足元の花を愛でた先にある感情が芽生え初めている。

「そう思うなら、償ってほしいねぇ」
 
その花を摘み取りたい。

花びら一つ余すことなく搾取したい。

絆創膏を剥がす。
もう血は出ていないが、傷は残っている。

やっぱり痛そうだと曇るトトの顔。何か言いたげな唇だったが、リヒルトの言葉を実行する。

「……ん」

舐めた。
昨日と同じ行為だが、唾液を多く出し、ひたすらに舐める。愛撫をするかのように。

「原始的な治療法だねぇ」

「すみ、ません。これしか、分からなくて」

包帯も薬もない、あまつさえ血を拭く布さえもなかった場所にいたものが、いざ治療しろとなればこうとしかならない。

「歯を立てて血を吸いたくないの?」

「そしたら、リヒルトさんが……」

痛くなると、彼女の愛撫は続く。

そろそろ、羊たちの餌やりに行かなければならないが、体が動かない。

もっと見ていたい。
足元に座り、健気に償い、自身のことしか思っていない女を。

「っ、げほ、けほっ」

「ああ、“奥”まで入ったか」

咳き込む彼女の頭に手を添える。
大丈夫?と心配の言葉をかけながら、唇が綻んでいるのを自覚した。

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