形なき愛を血と称して
摘み取った花の行く先は、何か。
「ほんと、君はーー」
口に出す矢先、ラズが鳴いた。
外で羊の番をさせていたが、鳴き声が近い。
なんだと玄関に目を向ければ、扉が開く。
蝶番が軋むほどの馬鹿力で。
「リッヒイイィ!どおおゆーことかしらあぁ!」
パステルカラー頭の逞しい体が、リヒルトに詰め寄ってきた。
「この前の薬、ぜんぜん効かなかったじゃないの!危うく、触手な奴らの餌食になるところだったわ!」
「触手を引きちぎる君が目に浮かぶようだねぇ」
イメージとしては、ゴリラの食事。
がみがみ怒鳴るパステルカラーなど無視に限るが、ふと、足元にいた花がいないことに気付いた。
どこに行ったのかと思えば、背中からプルプル震える振動が伝わる。
「聞いてんのかしらぁ!場合によっては、あんたのーーあらん?」
背伸びするだけで、リヒルトの背後にいるものーー縮こまって、子猫のように震える者を見下げることが出来た。
数秒の間の後。
「きゃわいい子ー!」
「ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっ」
嵐の前の静けさ過ぎたら、大騒動。
可愛いトトに歓喜し、それに対して何故か謝り出すトト。
耳を塞ぎたい気持ちとなったが、背後霊と化したトトが傍観者の立場でいさせてはくれない。
「やめろ、フローリデ。君にその気がなくても、大型動物の威嚇になっている」
ゴリラの威嚇を濁して言えば、あらやだとパステルカラー頭ーーもとい、フローリデはおどけたように笑う。
「ごめんなさいね、あたしったらー。あんまりにも可愛い子がーーリッヒーの彼女?やだ、あなた、女に興味ないとか装いながら、こーんな子を囲っているのね。角と翼のコスプレさせちゃって、何のプレイよ」
このこのーと、肘で小突かれた。
「自称魔法使い。悪魔という存在を知らないのか」
「わ、わたしは、吸血鬼です!」
「声もきゃわいいぃっ」
「ごめんなさいごめんなさいっ」
「だから詰め寄るな」
リヒルトの服を破けんばかりに引っ張るトトを落ち着かせる。
「耳障りだから、騒がないでほしいねぇ。そう怯えなくてもいい。見た目はアレだが、愛と美の魔法使いとか恥ずかしいことを公言する頭が残念な系統だから」
「見た目はモンローよ」
「君はモンローを、ゴリラか何かと勘違いしているのか?」
チョップをくらいそうになったが、ラズが間に入って止めさせる。
「あーもーっ、リッヒー宅に来る喜びはラズに会うだけかと思ったのにぃ!その子、いつまでいるの?というか、そんな可愛い子からも牙を抜くの!?というかというか、その子、ひどい際どい格好じゃない!」
ラズを片手で抱きながら矢継ぎ早の問い詰め。
わかったわかったと、話を聞き流してはみるも、服と言われてはっとする。
肌をまとう布だからこそ、服と称するが、トトの着ているものはぼろ切れも同然。
来たときから変わらない佇まい。別にそう気にもしていなかったが。
「ちょっと、あなた!下着は!?」
「下着?」
「ブラもつけずに、胸がこの位置にあるなんてっ!羨ましいわぁ。大きければ大きいほど重力に負けちゃうのにーーじゃなくてっ、リッヒー!アブノーマル過ぎるプレイは夜にやりなさいよ!」
「色々誤解しているようだが、解くのも面倒だ。どうせ君は信じないだろうし」
嘆息しつつ、リヒルトはフローリデにお金を渡した。