形なき愛を血と称して
「これに合う服を探して来てくれ。あと、女に必要な備品も。しばらくこれは、僕のところにいるから」
フローリデがこの世の物とは思えない破顔をしたのも無理はない。
「リッヒー、熱でもあるの?」
「月並みなこと言ってないで、行ってくれ。足りない分は後から請求。おつりがあったら戻すこと。領収書は忘れずに」
フローリデに構う気も失せたか、リヒルトは召喚の手引きに目を通す。
「あの、リヒルトさん。いいんですか……。そのお金……」
あちらにも“お金”の概念はあるらしい。
申し訳なさそうな顔をするトトの顔も見ずに、リヒルトは「気にしなくて良い」と返すだけだった。
「リッヒーも、人並みになれるのねー」
「……」
「はいはい。行ってくるわ。待っててね」
二度と来るなと見ていた本を投げつけたくなったが、ふと、ムキになっているこの心情の出所が気になった。
「何だって、僕は……」
フローリデが鬱陶しいと思うことあれど、怒りを覚えることはなかった。
いったいいつから、自身の心はこんなにも表情豊かとなっていたのか。
問うまでもなく、横に目をやれば、答えはそこにある。
「嬉しそうな顔、してる」
「え、だ、だって、服だなんて。ど、どんなのか楽しみでーーご、ごめんなさい。お金は大切なのに」
表情豊かとは、正にそれ。
移ってしまったかと、下げた頭を撫でてみせる。
「他のこともきちんと聞いていたか?君、しばらくここにいなさい。どこにも行かず、ここにいればいい」
「は、はい!」