形なき愛を血と称して
一章、『愛されなかったんだね、君も』
(一)
カウヘンヘルム家と聞けば、地元の者なら知らぬ人はいない。
町外れの平野にて、代々、牧場を営んでいる家系だと。
昔は牛や馬など多種多様の家畜を飼っていたが、三代前から羊しか飼わなくなった。
経営に失敗したのだろうと、人々は噂し、町外れにあるということで、人の出入りがないに等しくなったのは極々自然のことであろう。
落ちぶれた家系。今でも牧場を営んでいるのか怪しいそんな地にーー現カウヘンヘルム家当主、リヒルトは暮らしていた。
広大な牧草地には、二つの建物がある。
一つは、羊たちの寝床たる羊舎。赤い屋根と廃れた木の外壁で成る建造物。
もう一つが、カウヘンヘルム家の自宅。
こちらは青い屋根の二階建ての建物だ。
石壁のシックなハウスに、リヒルトは一人で暮らしていた。
母は幼き時、父は三年前に。兄弟はなし。親戚はいるだろうが、好き好んでこんな辺境の地にやってくるはずもない。
26才にして、リヒルトに任されたこの牧場であるが。