形なき愛を血と称して
言葉の真意を見ないトトは、一つ返事で喜びを表現する。
ここにいればいい。僕の足元に。
最後まで口に出来なかったのは、何故だったか。
真意を悟らせたくなかったためだが、それこそ何故とつくが。
『愛されなかったんだね、君も』
自身の言葉ながら、呪縛のようにつきまとうそれ。
こんな僕を愛してくれる輩はいない。だからこそ、真意はひた隠しにしておこう。
花は逃げない。しかして、枯れないようにしておく必要がある。
「私も、羊の世話を手伝わせて下さいっ!リヒルトさんのお役に立ちたいです!」
大輪は咲いたまま。それを眺める自身の気持ちも安らぐのが分かる。
「でも、凄いですね」
「何が?」
「こっちの世界には、あんなに綺麗なトロールさんがいるんですね」
「……クッ」
腹から声が出た。
「クッ、ハハハハッ!」
腹が捩れるほど、声を上げてしまう。
最後のとどめにも近かった。
日が射した心に、花が咲く。彼女によく似た花が。
彼女により撒かれた種は見事に育つ。
生きる意味も、意義も、意気込みも。何一つなく、つい先日まで死んでも構わないと思っていたというのに。
生まれ変わったを題するなら、今の自身に相応しい。
気付かせてくれた花を、知らずと抱き締めていた。
愛おしい。ひたすらに、愛おしい。
「ずっと、ここにいなよ。トトちゃん」
「え、えっ!ちゃ、ちゃん?」
「呼び捨てにされたい?」
「と、とと、とんでもないです!リヒルトさんは私の主になるんですから!で、でも、名前、私の名前ーー」
じーんとした面持ちでいるトトは、初めて名前を呼んでもらえた風貌だった。
散々な扱いを受けたあちらでの呼び名は想像するまでもない。
『愛されなかった者同士』。そんな言葉が過ぎる。
それでも、人を愛せるのだから、腕を伸ばすのだった。