形なき愛を血と称して
(三)
トトと過ごす日々は、瞬く間に過ぎていく。
毎日が幸せと言えるほど、リヒルトの笑顔は日に日に増えていき、その愛情も深まる。
「ラズ、おて!」
「ワン!」
「ワンじゃなくて、おてです!」
「ワン!」
「リヒルトさーん!ラズがおてをしてくれません!」
「ラズは僕の言うことしか聞かないからねぇ。もっとも僕は、トトちゃんの言うことしか聞かないけど」
トトの手のひらに、ぽんと手を乗せる。
慌てて引っ込められた手だが遅く、強く握られた。
「羊舎の掃除して、汚れているから、今は握手だけ」
「き、気にしませんよっ!わ、私だって汚くーー」
「なっちゃいけない。だから、トトちゃんは羊舎の掃除禁止。後、カラス追い払うこともしなくていい。家にいなさい回れ右」
現在は外。牧草地でラズとカラスの番をしていたところに、やってきたリヒルトから、一連のことに繋がる。
リヒルトの言葉に思わず回れ右してみたが、腑に落ちないトトはまたくるりと向き直る。
「手伝います!」
「手伝わなくていいよ」
「いやです!リヒルトさんのお役に立ちたいです!」
「強情だねぇ」
「服を買ってもらった分、働きます!」
麦わら帽子のツバを持ち、意気込むトトだった。
「はあ。ラズ、トトちゃんを家に連れて行って。外に出さないように」
「バウバウバウッ!」
「きゃーきゃーっ」
連れて行くよりかは追い回すのだが、トトが家に入ればこの際それでもいい。
二階まで逃げたらしく、窓からトトが懲りずに「私もお役に立ちたいですー!」と繰り返していた。