形なき愛を血と称して
「二階から大声で僕への気持ち言ってくれるなら、考えなくもないよー」
「リヒルトさんが大好きですから、お役に立ちたいですー!」
「分かった。考えてはおくよ」
「答えはいつ出してくれるんですか!?」
当分出ないとは、好きと言われて満面となる笑みが語る。
トトは案外、強情であった。
従順過ぎるからこそ、主人に対して身を削ってでも奉仕したがる。そこにリヒルトへの愛情もあれば、気持ちは膨れ上がるばかりだった。
二階の窓でも、トトがしくしくむせび泣いているのが分かる。少し慰めるかなと思えば、トトは自ら涙を拭った。
「やっぱり、手伝います!」
へこたれないトト。意を決したように、窓から身を乗り出した。
「なっ!」
いくら羽があるとは言え、トトの飛行能力は紙飛行機程度のもの。
慌てて駆け出すリヒルトだが、思いの外、トトの羽は綺麗に動いていた。
「へ、あ、あれ?すごいっ、すごいです!飛べる!」
本人が驚愕するほどに。
二階の窓から鳴くラズに、ここなら届きませんねっ!と言えるほどに余裕のようだ。
「……、そうか。僕の血を」
飲んだせいかと、トトの“吸血鬼らしさ”にリヒルトは呟いた。
トトに欠けていた吸血鬼としての特性。
サキュバスとの混血にせよ、超人的な身体能力を持つ遺伝子は受け継いでいるのだ。
弱者であったことこそが異常。
翼があるのに飛べない道理などない。退化ではなく進化した肉体なのだから。
人間とて、必要な栄養素を摂取しなければ体が衰える。
人間の血という限定された食物を摂取してこなかった吸血鬼ともなれば、その衰えの凄まじさは想像に難くない。
混血だからこそミイラ化せずにいられたようなものだ。同種から吸血鬼扱いされなかったトトが、今まで血を飲んでいたのかも怪しいところ。
血を飲むようになって、トトは飛ぶまでに至るのかとリヒルトは眺めていたが。