形なき愛を血と称して
「ごめんなさい、ごめんなさい……っ」
涙を流しながら。
罪悪感に蝕まれながら。
血をすする時は、必ずこちらを見るように。そんな教えを守る濡れた眼差しは、リヒルトの心を満たすようだった。
「僕に自傷させたくないなら、君自身が牙を立てればいいのに」
それこそ、誰もが知る吸血鬼らしく。
トトは今まで、一度もそういった行為をしていない。
「リヒルトさんを傷つけたくないんです……」
嗚咽混じりの答えは、矛盾しているようで理には叶う。
大切だから、傷つけたくない。そう言われたのも踏まえれば、トトが自分からリヒルトの肌に牙を立てることもないだろう。
この自傷でさえ、トトはやめてと懇願している。けれど、そんな健気な願いすらも叶えてやらない自身は何なのか。
「ぜんぶ、君のためだよ」
自問し、トトにすら当てはまる答えに至る。
痛覚がある身として、自傷し続けるほど異常になれるのは、ぜんぶーー
「君を、愛しているからこそ出来るんだ」
満面の笑みで、リヒルトはまた一つ、傷を作った。