形なき愛を血と称して
ーー
泣き疲れて寝てしまったトトが起きたのは、夕暮れのことだった。
寝過ごしたことに飛び起きるトトだが、同時に首を傾げてしまう。
いつもなら、リヒルトが昼食時にやってくるはずだ。
最近は血液しか飲ませてもらっていない。血液を飲まずとも生きられるのは、あちらでの生活から承知済みでも、リヒルトは同じ食事を食べさせてはくれない。
リヒルトの肌に傷が増える度、苦しかった。
飲まなくてもいいものを飲む。
されども、リヒルトの血液を見ると、喉が一気に渇いて、欲してしまうんだ。
「うぅ……」
グランシエル家に産まれた者として、その“吸血鬼らしさ”は望むべきことなのに、リヒルトと出会ってから、吸血鬼であることが嫌で仕方がない。
グランシエル家の異端。混血。
あちらでは、吸血鬼でないから居場所がなかったがため、吸血鬼でありたいと願っていたのに。
『気持ち悪くないよ』
吸血鬼でなくともいいと言った人のおかげで、自分の居場所を見つけることが出来た。
リヒルトは温かい。優しい。ここにいなよと、居場所を作ってくれる。
リヒルトが自身を大切にしてくれているのはよく分かる。自身も同じ気持ちなんだ、リヒルトが大切。
なのに、
「この牙がなければ……」
いいのかと、自分が唯一、吸血鬼と言える部位に指を伸ばす。
あちらで散々、虐げられた部位。
異なる見目の癖して、吸血鬼と確証付ける牙をよく思わない同族はたくさんいた。
だから、抜かれた。
私はあなたたちと同じ。家族です。そう訴え、証拠として見せれば、抜かれる。
吸血鬼の牙は生え代わるが、リヒルトが言うには、自分にはもう、“後はない”。