形なき愛を血と称して
『愛されなかったんだね、君も』
「……」
リヒルトの頭に過ぎる、己の言葉。
特筆すべきこともない、自分一人しかいないつまらない絵の中(過去)に、一輪のマリーゴールドが書き足された絵(現在)。
それを見た瞬間、この絵には“これだけ”でいいんだと思った。むしろ、“このため”に白紙のままでいたとも思えた。
「僕には、君だけでいいのに」
愛されなくても苦ではない。他の奴らに愛されることは吐き気を覚える。
「君の中に、僕は不要(いないの)か」
上げられたリヒルトの顔。
頬に涙が伝っていた。
「そんなはずない。そんなことーーあるわけがない!僕たちは、あれほど、愛し合っていたのに!」
物から人に戻った時、彼は初めて取り乱す。
「間違いだっ、おかしいそんなわけないっ!絶対にっ、こんなこと、あってはいけないっ!僕から離れるなんて許さないっ、許すわけがない!君はずっと、僕の元にいるべきだ!それがどうして、分からないっ!」
トトに向けた激情の名は怒り。
息巻き、血走る眼差しを受けたトトは、怯えて固まるしかないがーーオロバスの体が大きく揺れたことで、はっとする。
「にげてっ!」
象の足が天高く持ち上がる。
月の光が陰る位置には、リヒルトの姿。
「カウヘンヘルムうううぅ!」
憎悪を込めた渾身の一撃。
満干の思いがこもったそれをーー