形なき愛を血と称して
察したのは男も同じ。
首だけでは逃げられないものだから、口を必死に動かす。
もはや言語を逸した金切り声が男の言葉となり果てようとも。
「とどめを刺してもいいと思ったが、見せしめ。伝えておいてよ、その無様さと悲鳴で。僕を舐めたらどうなるか、次はないと思えよ、吸血鬼(家畜)」
手にした小瓶の中身を飛翔させる。
真っ赤な液体は男の体にかかるなり、蒸発した。
同時、床に紋様が浮き出る。
羊の血が染み付いた円形の図が、先の小瓶の液体ーーカウヘンヘルム家の血により胎動した。
この世界に存在しない者を招き寄せる魔術は、存在してはいけない者をあるべき場所へ返す魔術にも変貌する。
カウヘンヘルム家当主にしか扱えない魔術を、リヒルトは受け継ぎーー
「そうして、誰もいなくなったーーだねぇ」
無意味な物を手にしてしまったと、静まり返った部屋で呟くのだった。