形なき愛を血と称して
赤く染まった牙。しかして、それはーー
「っ、何をして……!」
リヒルトの血ではなく、トト本人の血であった。
己が腕に牙を突き立てる自傷。
把握した時点で既に遅し。牙の根元まで、ずぶりと入っていた。
「やめなさい!」
自傷行為に待ったをしても、トトは頑なに腕を噛み続ける。無理に引き離そうとすれば、息を荒々しくして必死に抵抗された。
んー、んー!と痛みと拒絶を表した声が浴室に響き、重なるようにしてリヒルトの制止が入る。
そんな押し問答がどれほど続いただろうか。
ようやっと取り止めとなった噛み付きの結果は、虫食いのように出来た腕の傷痕だった。
シャワーのせいで凝固しない血は、排水口に呑まれていく。両者とも息を荒げているが、先に口を開けたのはリヒルトだった。
「なんで、こんな真似を!」
理解不能の行為をしたトトを叱責するが、すぐに傷の心配が芽生えた。
傷の手当てをしようと腕を取るが、振り払われる。また激情に身を任せようとした矢先ーー
「リヒルトさんに、こんな真似をしたくなかった……!」
どんな冷水よりも脳髄にまで染みる言葉を聞いた。