形なき愛を血と称して

「痛いです、すっごく……!牙を立てて、肌を傷つけるのだけでも、こんなに痛いのに、あなたは毎日、刃物を使って……!いや、もう嫌です!こんな痛い思いをさせてまで、リヒルトさんのそばにいたくなかった!離れるのは嫌だけど、あなたの命を、苦しめてでもそばにいたくない!

『大丈夫、平気』って、そんなわけないじゃないですかぁ!こんなに痛いのにっ、苦しいのに!私はただ、リヒルトさんを愛していたいだけなんです!

大切な人を傷つけたくないと思っちゃいけないんですか、私が間違っているんですかっ。大切な人が刃物で自傷するのを止めずに、笑って見ていることなんて出来ません!わたし、わたしは……!」

喋ることもままならなくなったか、泣きじゃくる彼女。しかして、尚も言いたいことがあるらしく、ところどころに言葉が混じる。

そのどれもが、リヒルトを想う言葉。
大切だからと、何度も口にされた。

それらを浴びせられた当人は、激昂が流れていくようだった。

大切だから。それは、リヒルトとて同じ事。だからこそ、先刻の行動がある。

トトが自傷した際に、必死になって止め。終わった後には怒りと心配が重なった。


『大切な人が、自傷するのを、笑って見ていられるか』

そんなこと言うまでもない。

「ごめん、トトちゃん」

ぽつりと出た謝罪は、泣きじゃくるトトの耳には入らない。

だから、抱き締めた。

「間違っているのは、僕だ」

今度は届いた言葉に、トトは泣く声を抑える。

< 71 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop