【短編】紅蓮=その愛のかたち
思わず、レコーダの配線を引きちぎり、レコードに両手をかけ、傍にあったボードにたたきつける。


元彼も、カナメも・・・・男はみんな私を捨てて行く。


絶望にも似た思いが身体の芯から、わき上がってくる。


パリンと渇いた音をたてて、レコードは粉々に砕け散った。


「これは、私の心が裂けた音だ。」


ナホミはもはや自分の心を止めることは出来なかった。


何かを壊し続けていなければ、自分自身が壊れてしまう。そんな強迫観念に駆られて、激動のままに身体を動かした。


心の中にあるのは、紅黒く、冷たく燃えさかる炎だけであった。


ナホミは彼の為に買いそろえた洋服やネクタイの一つ一つに目を走らせる。


「これも、私が彼に買ってあげたものだわ。これも、これも、これも・・・・。」


彼の好みで、購入したチェストの上には出逢った頃の二人の笑顔の写真が飾られている。


彼は、苦笑いをしながら

「なんだかそういうのは、俺の趣味じゃないんだけどなぁ」

と小さくそれでも嬉しそうに呟いていたではないか。


額縁の中の写真は、つきあい始め、忙しい彼がようやく捻出した時間で、一泊だけの温泉旅行に出かけた時のものだ。
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