【短編】紅蓮=その愛のかたち
旅館のお仕着せの浴衣を少し窮屈そうに着付けた彼が照れたような顔で笑っている。


横にはやはり笑顔のナホミが頰をすり寄せ、片手を長く伸ばしたカメラに自分たちが収まっているかを少し気にするような目線で映っている。


有名な温泉街ではあったが、二人が泊まった旅館は、にぎわいからは離れて、母の年の老婆が一人と手伝いのものが三、四人しかいない、民宿とでもよびたいような鄙びた旅館であった。


ただ、泉質は自慢だというだけあって、柔らかく、心のサビの全てを洗い流せそうな気がした。


ナホミは、過去の出来事を全部カナメに話した。


元彼が、ナホミに何も告げずに去っていた過去のことも、心の傷も、カナメには全部知って居て欲しかったのだ。


ナホミの話を真剣に聞いたあとで、


「大丈夫。ボクがついていてあげるからね。」


そう言って抱きよせてくれたのはカナメの大きな胸の中だった。


「この温泉で、今までの全ての苦しみを流してしまおうよ。これは二人の新婚旅行のつもりだよ。これからは、いつも二人で居るんだ。いいね」


大きな胸にすがりついて泣いているナホミを抱きしめたまま、彼が力強く宣言した。


そう、あれは確かに真実であった筈なのに・・・。


彼もまた、過去のことをナホミに打ちあけてくれた。


カナメが告白した、驚くほど多い女性関係に、不思議にジェラシーは沸いてこなかった。


もてる男を彼氏にしている優越感は、ナホミを幸せにしてくれた。


カナメが、ベッドで語る、過去の女性との痴戯のあれこれも、ナホミを刺激して、高みへと誘うアイテムの一つでしかなかった。


幸せの最中には・・・・。
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