Special to me
『あの時の駅員さんが、米原さんだったんですか?』
「あの時、きちんと名前を名乗ったはずなんですけどね」

俺は苦笑いした。

帰りに時計を返してもらう時間帯には、俺はもう勤務時間を終了していたため、他の駅員が預かってくれた。

そのことで駅長にバレて、大目玉を食らったことは、彼女に話す必要はないだろう。

宗岡駅に異動した後、彼女を再び見かけた時、僕は勝手に運命めいたものを感じていた。

でも、彼女は俺を覚えている雰囲気はなく、当たり前のように俺の目の前の改札を通過していく。

俺は自信がある。
彼女が改札を通る時、ワンマンに俺がいたら、必ず気がついて、目で追っていた。
見逃したことは、絶対ない。

でも彼女は気がつかない。

何とか、チャンスはないものか・・・。
そう思うこと、何年経つだろう。

高校、大学、社会人。

彼女の変化を全て見届けてきた。

見届けるだけで、存在が遠い。
駅員と鉄道を利用するお客様って、果てしなく遠い。

『あの時のお礼、きちんと言えてなかったですね。ありがとうございました。おかげさまで、今こうして社会人としていられるのも、米原さんのおかげです』

彼女は立ち上がって一礼した。
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