Special to me
昔の人は"初心忘るべからず"なんてよく言ったものだ。

私はすっかり忘れてしまった・・・バチが当たったのかな、この雨。

すると、後ろから、

『すみません』

と声がした。

振り返ると、そこに立っていたのは、明らかに駅員。
どう見たって、制服。

「はい?」

何か私、悪いことしました?

そりゃ、ある程度、あなた方の敷地の一部を占領していたかもしれませんけど、声をかけられるようなことは何もしていません。

『すみません、突然お声をお掛けして。傘、お持ちでないんですよね。これ、以前に電車の中で発見されたお客様の忘れ物なのですが、よろしければお使いになりませんか?』

と、差し出してきたのは、透明のビニール傘。

「い、いいんですか?」

だって、ビニール傘だって、人様のものでしょ?後から"私のです!"とか言ってくるんじゃないの?

『大丈夫です。この忘れ物は半年前に拾得されたもので、一旦警察に行ったものなのですが、遺失物の法律に則って3ヶ月が経過して所有権が我々に移っているものを、こういう天気のためにお客様に提供しているのです』
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