Special to me
『私はあなたと入籍して社宅に入りたいと希望を伝えてあなたは了承したじゃない』
「了承した覚えはない」
『でも拒否もしなかったじゃない』
「君は自分が押せば俺は何も言わない性格な部分につけこんだんだ」

間髪を入れない言葉のやりとりが続いたが、俺のこの言葉で止まった。

「・・・今日、ここに来た目的は何だ？金か」
『・・・まとまったお金より、安定した生活が欲しい』

すると、

"安定した生活も、まとまったお金も、晃樹くんからは手に入らないわよ"

背後から、つば広の黒い帽子を被った女性が椅子に座ったまま振り向いた。

『だ、誰？』

佳世が怪訝そうに女性を見る。

女性はつばをそっと上げた。

「千尋さん？」

大きなお腹を抱えた女性・・・曽我さんの奥さんの千尋さんだ。

社宅に引っ越してきてからは、真子ともども仲良くさせてもらっている。

「どうして、ここにいるんですか？」
『ヤスが家に財布を忘れてさ。頼まれたわけじゃないけど、何かあったらいけないから届けてあげたのよ。そうしたら事務室の前で貴方達が話しているでしょ？盗み聞きしてちゃんと報告しなくちゃと思って』

「報告って誰に？」
『決まっているでしょ？晃樹くんの奥さんに』

千尋さんのそのセリフに、驚いたのは佳世だ。
< 209 / 255 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop