Special to me
ところが、申請書の佳世の字と俺の字であるべき委任状の筆跡が全く同じであることに気付いた役所の人が処理を保留にして、俺に確認をしてきたことで佳世の勝手な行動が発覚した。

役所の人が処理を保留にしなければ、知らない間に俺は佳世と結婚させられそうだったんだ。

そんな手段を使ってくる女性を、心から愛せるわけがない。

『式場は予約していたの。これだけでも立派な婚約した証拠になるわよね。場合によっては裁判に持ち込むことだってできるんだから』
「予約していた証拠はどこにあるんだ?」
『コウちゃんと別れた後、全部思い出しそうなものは捨てたから・・・式場に確認すれば、取り寄せられるわよね』

『それは無理よ』

俺の隣に座ってからずっと黙っていた千尋さんが口を開いた。

『式場キャンセルしてから3年が経過しているんでしょ?キャンセルしたお客様の情報を、式場が3年も残しておくかしら?今は"個人情報保護法"もあって式場側もきちんと鍵のかかるキャビネットにそれらを収納しなければならないから、不必要な情報はとっくに処分されているわ』

"それに"と、千尋さんは続ける。
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