Special to me
車は産婦人科に到着した。

病院側がストレッチャーを用意してくれ、即分娩室行きとなった千尋さん。

家族が駆け付けられない事情を説明し、私達が廊下で待たせてもらうことになった。

待つこと2時間。

分娩室の中から、勢いのある泣き声が聞こえてきた。

その後、廊下に赤ちゃんを抱えた助産師さんと、ストレッチャーに乗る千尋さんが出てきた。

『男の子です』

助産師はそう笑顔で言うと、私達の前を過ぎて行った。

千尋さんに声を掛けた。

「おめでとうございます!」
『ありがとう、2人のお陰で、無事生まれたわ』

"話の続きはお部屋でお願いします"と言われて、私達も移動することになった。

生まれる直前のタイミングで、晃樹が駅に電話をした。

案の定、曽我さん本人とは話せなかったらしい。

病室で、そのことを千尋さんに報告すると、

『別にいいのよ。ヤスは駅員としてやるべきことをやる。そして私はやるべきことをやったの。鉄道員の妻だから、こうなる覚悟はしていたし。立ち会ってもらえる期待もしてなかったから、事前の研修も受けてもらわなかったしね』

鉄道員の妻としての覚悟。

それは、今回のように妻の出産に立ち会えないかも知れないとか、親の死に目に会えないとか。
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