Special to me
「僕には、強かった柔道家の父がいました。道場を開いて近所の子供たちや僕や姉に稽古をつけ、自身も5段を持つ恰幅のいい親父でした。母も、そんな夫を誇りに思っていました。しかし、病気を患ってから段々弱くなっていく親父がいて、それでも母は懸命に働いて看病をして介護をして・・・一度、僕は母に聞いたことがあります。"どうしてそんなに一生懸命になれるのか"と」

右隣にいる母親を一瞥し、すぐに視線を正面に戻した。

「母は言いました"お父さんと私とはね、長い歴史とあなたには分からない情があるの"と。そう言われて確かにピンと来ない僕がいました。"情"って何だろうと。友情、愛情、恋情、純情、激情、色々あると思います。でも、きっとそこには、言葉では説明できない、強い繋がりや心の動きがあるんだろうと、僕は捉えることにしました」

一気に話したので、一呼吸置いた。

「これから先、僕達夫婦が、両親のような強い繋がりが出来ることを目標にしたいと思っています。ですが、それはただ真似るのではなく、同じ人生を歩むことを決めた道を、同じスピードで、時にお互い見つめて気持ちを確かめ合いながらその距離を伸ばしていくことが、自然と両親のような慈しみ合える関係が生まれると、僕は信じています」

左隣にいる真子を見る。
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