Special to me
彼女が改札を通る時間帯も、乗る電車も、乗る位置も、全部インプットしている。

本来はやらないけど、今、傘を渡せば、俺のことを覚えてもらえるかな。

そんな邪心を持って、彼女に声をかけた。

『すみません』
「はい?」

何で疑問形なんだよ。

でもそんな考えは表に出さず、できるだけ丁寧に傘を使ってもらうように伝えたつもりだ。

半ば無理矢理押しつけることになったけどね。

だって、普通受け取るだろ?傘は。
遺失物法では3ヶ月経過すれば、持ち主から所有権が拾得主に移る。

だから、他のお客様が車内の忘れ物を拾った場合、そういう所有権の問題があるから、3ヶ月後の所有権を行使するか放棄するかを必ず拾ったお客様に確認しなければならないんだ。

とにかく駅員の仕事は、ルールと時間の制約が多すぎる。

お客様の命を預かる仕事だし、仕方ないけどね。

運転士よりは命を預かる比重は低いから、その分、接遇で頑張らないとならないといつも思っている。

特に、彼女には・・・

やっと傘を受け取って帰ってもらった。

これで、覚えてもらえただろうか・・・いや、覚えてもらえることを願う。
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