Special to me
昼間から酒を煽り、そのまま道場で稽古つけるようなことがあってからは生徒も減り続け、俺が中学2年になった頃には、生徒は誰ひとりいなくなり、募集も停止した。

当然、収入はゼロ。
母親はパートに出て働くも、蓄えを毎日潰して暮らす。

そして毎日大量の酒を飲んでいた親父の体は蝕まれ、重度の糖尿病を患った。

入退院を繰り返すようにもなり、高校に通っていた俺は、家のために卒業後は就職することに決めた。

近場で、母親を助けるために転勤のない、親父とは違って安定した職業。

思い浮かんだのが鉄道会社だった。

高校で成績は悪くなかった俺は、順当に入社試験をパスし、晴れて鉄道員となった。

結局、親父は去年亡くなった。

真子に出会っておきながら、声を掛けることができなかったのも、そして今年になって声を掛けることができたのも、親父のことが頭にあったからかも知れない。

『そうだったんだ。無理に聞いちゃってごめんね』
「俺こそ、真子は途中で寝ちゃうかと思ったけど、最後まで聞いてくれてありがとう」
『当たり前だよ。晃樹が自分のこと話してくれているのに、寝ちゃうなんて勿体ないもん』
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